コンセプト
■改修前の状況
約160年前に建てられたこの住まいは、痛みも甚だしく、建築主の方も日常的には別の建物で生活されています。しかし、先代より受け継いできたこの住まいを朽ちるに任せるのではなく、次の世代へと伝えていく決意をされ、同時に日常生活に必要な最小限の整備として台所食堂と便所を付加する改修を行う事となりました。
■改修の方針
1.記憶を伝えていく事
2.空間の質を伝えていく事
1.記憶をつたえる
建築主の方のお話からは、この建物での様々な思い出や先祖から伝え聞いた過去の出来事などが、ここに伝わる御仏の像や古家具、梁柱の傷などと共に鮮やかに浮かび上がってきます。長年にわたる家族の記憶は新たな彩りを添えながらも、大切に繋いでいきたい、そのためには住まいの装いを一新するのではなく、時間の重なる姿を伝えていきたいと考えました。現代生活へ適合する改修には今日の手の跡が残ります。それがさりげなく行われるように気を配っています。
2.空間の質を伝える
開放的な日本の住まいでは、屋外と屋内、土間と床、室と室などあらゆるレベルでの空間の連続性が保たれ、視線や音・空気の「抜け」が設けられています。現代の、壁で区画された空間、外部環境に対する内部の閉鎖性とは全く質の異なる伸びやかな空間が本来の私たちの住まいでした。そのような空間の「抜け」を大切に改修を行っています。
■改修の具体的な詳細
田の字型の間取りにつながる土間にいろいろと付加されていました床を一旦全て撤去した上で、土間を前後に二分して、手前を玄関土間、奥は床を張って台所食堂としました。その間仕切りは視線をある程度遮りつつも、竹の簾の子を編んだ大和天井と丸太の梁が一体的に被っています。その梁にはこの住まいに電気が初めて来た時の碍子をそのままに残しました。
改修を終えた住まいは凛とその姿を蘇らせ、新たな時間を刻んでいくことと思います。
建築概要
建築面積 | : | 109.68㎡ |
延床面積 | : | 109.68㎡ |
規模構造 | : | 木造 平家建て |
設計期間 | : | 2002年04月~08月 |
工事期間 | : | 2002年10月~12月 |
設計監理 | : | 木村哲矢建築計画事務所 |
施 工 | : | 泉宏建設株式会社 |
プロデュース | : | (株)アーキッシュギャラリー |
掲 載 | : | ●「古民家スタイルNo.1」ワールド・ムック445 ●「DIME」2005年1月5日号 |